十七八歳の頃townというゲームに夢中になっていた。今が三十五歳なのでその頃から倍の人生を生きてきたことになる。

 townがどんなゲームかと一言で説明するとオンライン要素のある人生シミュレーションゲームだ。他のプレイヤーと交流できるシムズのようなゲームと言ったら分かりやすいかもしれない。と言ってもシムズのように綺麗なゲーム画面ではない。


 一つの町に100人ほどのプレイヤーが住みお店の経営や仕事をしてパラメーターをあげていく。お店で販売するアイテムは他のプレイヤーが購入してくれるのでそこで交流が生まれることもある。ゲーム内には役所がありお金持ちランキングや力や知能などの各パラメーターのランキングを掲示していた。

 人生シミュレーションの良いところは現実の自分に関係なくゲーム内の僕は充実した生活を送れるところにある。役所に自分の名前を載せることが当時の僕の目標だった。このゲーム内の仮想空間の僕のパラメーター上げに現実の僕は夢中になっていた。

 今でこそオンラインゲームは嫌いだがtownのオンライン要素は僕に合っていた。一緒にクエストをこなしたりする密接に他人との連携が求められるゲームだと人との繋がりを重荷に感じてしまうがそういったものはこのゲームにはない。緩く人付き合いが出来るゲームだ。○○商店街やちょっとしたギルドのような仲良しグループは存在したが参加したくなければ参加しなければいい。それでゲームの難易度が上がるということもなかった。誰とも接することなくパラメーター上げに没頭することができた。 

 二三ヶ月プレイすると僕も役所の掲示板の下の方に名前が載るようになっていた。家に居るときは睡眠時以外はずっとtownをしていたのだから当たり前だ。

 townのパラメーター上げには待ちの時間も発生する。一定時間に連続してパラメーター上げが出来ないように設定されていたのだ。僕は待ち時間の解消と同時に次のパラメーター上げをすることを繰り返した。風呂に入るくらいの短い時間ならパソコンはログインしたままの状態にしていた。そうやって僕のキャラはどんどん鍛えられていった。十七八だった僕は自分が少なくともゲームの中では凄い人間になったのだと誤解していた。


 このゲームには結婚の要素もある。ゲーム内の僕も結婚していた。結婚相手はなかなかログインせず夫婦仲は冷めていた。妻は僕よりも長くこのゲームをしていた人だったが僕たちが結婚したころにはどうやらゲームに飽き始めていたらしい。僕はあまり満たされていなかった。ゲーム内の掲示板で知り合って適当に結婚しただけの仲なので特に親しいわけでもなかった。

 その頃僕は信じられない情報を耳にした。このゲームでリアルのカップルが誕生したというのだ。当時の僕は若者で生活の中で女性が占める割合は今よりとても大きかった。townをプレイする年齢層は様々で20代の人もいたし40代の人もいた。僕と同じ10代の人たちも結構いた。

 そこで早速僕も妻以外に同年代の仲の良い女性を作ろうと考えた。実際に会ったりするという所までは考えていなかったしゲーム内でメッセージのやり取りをして色々な話が出来ればそれで良かった。それまでほとんど人と接することなくゲームに没頭していた僕だったがゲーム内でカップルが生まれたという話は僕もこのゲームで親しい女性を作るんだという新たな目標を僕に与えた。

 このゲームでは新規に参加したプレイヤーの女性にも簡単にメッセージが送れた。ゲームに長く参加している人は既に仲のいい人や結婚している人がほとんどだった。そういう人にメッセージを送っても僕の目的の前には意味が無い。

 最近参加したての女性がいた。ゲーム内の掲示板でゲームのことを質問していた。僕はこのゲームのことを色々と教えてあげて仲良くなった。既に役所の掲示板に名が載るほどの凄いプレイヤーである僕が新米プレイヤーにメッセージを送っている。僕に目をかけられて相手も喜ぶだろうと思っていた。

 だが相手の反応は冷ややかなものだった。そのうちにアイテムも渡したし何だったらゲーム内マネーもあげた。それでも彼女の反応は変わらなかった。彼女のログイン時間は一日一時間ほどだった。僕のように家にいる間はずっとログインしているような人間もいたが普通の人はそのくらいのものだった。

 ログインしている人の一覧がゲーム画面に出るようになっていて彼女の名前が表示されると嬉しかった。すぐにメッセージを送ると彼女が来るのを待っていたような感じになるので少し時間が経ってから今気づいたふりを装ってメッセージをした。

 僕が結婚していることに彼女が触れてきたこともあった。ただそれだけのメッセージで会話は発展しなかったが嫉妬しているのかななんて思い僕は少し喜んだりしていた。今思い返すと結構痛い。ゲーム内で彼女が僕以外の人と結婚していたら当時の僕は本気で嫉妬しただろうなと思う。

 ある日メッセージで僕のパラメーターの話になった。彼女と出会ってからもガンガン鍛えていたので以前よりも僕のキャラの能力は上がっていた。正直僕は得意げだった。

 だが突然彼女に言われた。暇なの? と。相手は全く僕のことを凄い人だとは思っていなかったのだ。鍛えすぎたパラメーターが仇になった。僕が暇人であることはキャラが代弁している。彼女は現実世界も充実した女性だった。彼女から見ればゲーム内で凄いパラメーターを持つだけの僕なんて大した存在じゃ無かった。

 ログインは続けたがログイン一覧に自分の名前が表示されないようにして隠れてゲームをした。以前は彼女がログインすると喜んだが今は彼女とメッセージするのが苦痛だった。

 それから少しして僕はtownを去った。あの頃はゲーム内のパラメーターは凄かったが現実の僕はダメ人間だった。しかし若さという免罪符があった。彼女に否定されても現実の僕にはまだ可能性はあった。今はそのまま年をとりゲーム内ではお店を持ち立派な仕事をして頭脳も筋力も高かった僕がゲームと同じ道を歩むこと無く現在の僕になっている。


 今もtownは存在する。このゲームは僕が遊んでいた当時から開発者の方がゲームプログラムを無償で配布されており自分が運営するホームページに簡単にtownを設置することができる。設置されたtownの数だけ管理人が存在し改造されたtownなんかもあった。少ないところで10人多いところで100人ほどの人々が集まっていた。僕の遊んでいる町は土曜の夜などは大賑わいだった。今は昔よりも多くのオンラインゲームがあったりスマホゲームが普及しているので参加者が少ないのが寂しいところだ。