寝起きで牛乳を飲み過ぎて喉の辺りに少し違和感がある。数回えづけば簡単に胃の中がひっくり返りそうだ。気分が良くなるのを待ち昼前にようやく家を出た。

知っている景色を観察するくらいなら同じ電車に乗り合わせた見知らぬおじさんの顔をじろじろ見る方がまだ楽しい。なんでそんな所にほくろがあるんだろうとか色々と考える方が有意義に時間を過ごせる。でもおじさんと目が合うと気まずいから大抵の人はスマホを見ている。僕はまた景色を眺めた。前回1度通っただけでは全ての景色を覚えるほど見れていない。いくつか知っている景色が電車の外を流れていった。おじさんの顔を見るよりはまだ楽しい。

11時台の電車は混んでいた。1度座席に座ると目の前におじさんが立ち景色は見えなくなった。呼んでもいないのにおじさんの方から僕に接近してくる。同じおじさん同士共鳴しあっているのかもしれない。

前回は遥か先に目的地があったから車内放送は聞かなかったが江ノ島がどうとか言っている。近いのだろうか。目の前に立ったおじさんは右手で吊り革をつかみ左手で携帯電話を操作している。視線を少し上に上げるとその左手が見えた。僕よりも大分毛深い。僕の手は遠目に見たら毛が全く生えていないように見える。子供の頃はピアノをやっている人の手のようだと良く言われた。今でも形も色も綺麗な方だと思う。自分の体でもたまにじっくり見ると面白い。

熱海まで半分ほど進んだときには車内も空いてきた。目の前に居たおじさんもどこかへ行った。場所は鴨宮(かものみや)という駅だ。ふと窓から外を見ると富士山が見えている。こんな場所からも見えるというのは驚きだ。まだ神奈川である。そう言えば富士山で思い出したがまだ初夢を見ない。ナスビの夢を見ても良いかと思っていたがどうせなら年明けから2度も富士山を見ているのだから富士山の夢を見たい。

熱海までの間に通過する駅の中に真鶴(まなづる)と言う駅がある。綺麗な地名の駅だから記憶に残る。横浜から来ると真鶴の後に湯河原と熱海が控えているからわざわざこの地で電車を降りる人も居ない。観光客が下車するような場所でも無い。住宅街しかないような土地だ。この真鶴は神奈川県内で最初に過疎地域に認定された土地でもある。神奈川は都会に思われているから過疎地域があると知ると驚くような人が居る。

熱海に着いた。まずは腹ごしらえだ。本当はせいろ蕎麦を食べたいが僕が寿町で食べた静岡の蕎麦はせいろではなかった。可能な限り同じ蕎麦を頼んだ方が良いだろう。目星を付けていた蕎麦屋に入る。

結果熱海で食べた蕎麦は甘くなかった。城崎温泉で食べた蕎麦は蟹が乗って950円だったが熱海の蕎麦は少し観光地価格でもあった。蕎麦もつゆも美味しかったが寿町で食べた静岡の蕎麦とは違う。ただし食べて満足する味の蕎麦だった。思うようにいかないのも旅の醍醐味ではある。
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前回来た時と違い今日の熱海は人が少ない。これくらいの人手が熱海の平常だ。前回は三が日に来たから歩くのも大変な人混みだった。

熱海の良いところは程よく寂れている点だ。
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温泉の集客力が弱まっており全国的にどこの温泉街も寂れているようだ。寂れ過ぎると気怠いような感じが出るがまだ熱海は踏みとどまっている。
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坂道の多い土地だから暮らすのは少し大変だろう。
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どこに行っても坂がある。
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海に出た。太陽の加減だろうか。横浜の海よりも青い気がする。写真を見ると山にへばりつくように街が形成されているのが分かる。坂が多いのも当然だ。
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路地を探索するのも楽しい。
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1階が店舗になっていて2階より上が住居スペースになっている建物が多い。
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店舗の脇に住居への入口がある。
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何とも味のある建物が多い。

日本全国どこの観光地でも同じ事だがバブル期の金に物を言わせる開発の恩恵を熱海も受けている。豪華な建物が多い。元から見すぼらしい街が寂れていくのはみっともない気がするが豪華な建物が林立する街の寂れる様はかつての栄華の名残を感じる。

旅の楽しみの1つが旅先での暮らしを想像する事だ。この土地に住めば自分の人生はどのように変わるだろうと考えるのが楽しい。昔販売の仕事をした事がある。当時の上司からエンドユーザーを考えた商品配置を心掛けるように言われた。この商品を買えばあなたの生活はこうなりますよと想像させるような売り場作りを目指せと言うのだ。中々難しい注文だ。だがそれを街全体でしているのが熱海だと思う。日常の買い物にも不自由しないし温泉も海も山もある。都市の機能も田舎の自然も揃っている。コンクリートのビルとビルの間にせっせと街路樹を植えて人口の自然を作るという涙ぐましい努力を大都市ではしている。そんな偽物の緑を作っただけで自然と共存する街などと大声で言っている。熱海には本当の自然がある。



熱海を去り湯河原にやって来た。電車で1駅だからすぐに着く。
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駅前は熱海と雰囲気が似ている。ただし散歩の楽しみは熱海に大きく劣る。熱海のようには栄えておらず駅前にちょろちょろと店がある程度で後は民家ばかり建っている。あまり観光地化していないため観光客が来ても楽しめるような街には思えない。まぁ隣駅に温泉地としても観光地としても格上の熱海があるのだから仕方ない。
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おもてなしの心は感じた。駅のホームのベンチには座布団がかけられている。素晴らしい配慮だ。

街中には湘南ナンバーの車が多い。どうやらこの辺りは湘南の一部のようだ。

駅前の観光案内マップを見て愕然とした。湯河原駅から温泉地まではバスで行くのが普通らしい。車で5分の距離だ。歩けば40分近くかかる。バスはあまり好きじゃない。後ろから乗るのか前から乗るのか先払いなのか後払いなのか運賃はどのように知るのか色々と慣れていないから乗るだけで緊張する。

温泉に行くのは早々に諦めた。次は小田原だ。すぐに出発すると駅員さんに申し訳ない気がする。湯河原は僕にとってつまらない場所でしたと表明するようなものだ。かといって10分も駅周辺を歩けば他に見るべき物は何も残っていない。(僕はあまり利用しないが観光案内所に行けば駅近辺でも楽しめる場所を教えてくれるかもしれない)

喉が乾いたので自販機で蕎麦茶を買った。
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癖があるけど美味しい。蕎麦は好きだけど蕎麦茶は全く飲まない。なかなか悪くない味だ。



熱海で食べた蕎麦は思い出の蕎麦とは違い湯河原では温泉に入らずいよいよ3か所目の小田原に来た。普通の人なら大失敗の旅なのだろうがその時その時でしたいことをしているから自分には合っている。
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湯河原から小田原までは電車で15分の距離だ。湯河原の滞在時間とほとんど同じだ。湯河原を出る時駅員さんは号泣していた。
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複数の線路が乗り入れているようで駅舎が立派だ。
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駅前も繁華だ。
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駅を出てすぐに小田原城が見えた。
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城へと向う。残念な事に城下町の風情は全く無い。
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ただしコンビニは景色に配慮している。こちらは白黒のセブンイレブン。
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ローソンもこのような外観をしている。ただし牛丼チェーンなどの他のお店はどこの街でも見るいつもの格好だった。
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城のお堀に到着した。鯉が泳いでいる。
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城の中には大きな木が何本も立っていた。城郭内に木を植えるのは何か意味があるのだろうか。籠城時の燃料として使うのかもしれない。
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天守閣に登るにはお金が必要だったのでここで終了した。城が見えたから来ただけであって僕は熱心な城好きではない。小田原城も北条さんのお城だった事くらいしか知らない。
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大人は510円必要だ。団体なら割引がある。お城の広場には檻が設置されており猿が飼育されていた。他には風魔忍者を紹介する建物があった。関西では伊賀と甲賀が高名な忍者集団だが関東では風魔忍者だ。風魔小太郎が有名だ。

(湯河原か小田原には1度来た事があると昨日の記事に書いたが僕の勘違いだったようだ。どちらの街も初めて見る光景だった)

これで今回の旅は完全に終了となった。病み上がりなので少し疲れている。帰りの電車で20半ばくらいの色の白い顔の整った女性と乗り合わせた。綺麗な顔で饅頭を食べている。電車の中で飲食をするくらいだから育ちは悪そうだが饅頭をひと口の大きさにちぎって上品に食べている。左手の薬指に指輪がある。お腹が空いているのだろうとは思うが僕はどれだけお腹が空いていようが電車内で食事はしない。喉の調子がおかしいときに飲み物を飲む程度だ。お腹が空いてどうしようもないなら電車で移動する前に空腹を満たす。恐らくこの女性は公共の場での飲食を誰からも咎められる事のないまま現在へと至っているのだろう。誰にも咎められない理由も分かる。美人が油断しない顔のまま食事をする姿は不愉快にはならない。綺麗な女性だし饅頭を小さくして食べていたからいつまでも綺麗なままだった。家族も夫も当然注意する必要を見出だせないだろう。先ほど小田原に居た猿は餌を食うでもないのに大口を開けてまぬけな顔を見せていた。口を大きく開けるとどうしても馬鹿な顔になる。猿は人間に近い生き物だと言うが知性は感じなかった。

この女性と結婚に至るまでは相当な競争があったはずで現在の旦那さんというのは競争に勝ち抜いた強者である事は間違いない。それほどの男性なら彼の方にも女性を選ぶ自由はあったはずだ。それでも行儀の悪い美人と結婚しているのだから美人は得だ。猿は檻の中で飼われて通行人に可愛がられているが美人が受ける愛と猿が受ける愛は同じではない。



自宅に帰り静岡の蕎麦を自分の手で再現しようと試みた。
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麺つゆと砂糖と出汁を混ぜてそばつゆを作る。
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関東風の濃い色だ。
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蕎麦を入れて食べてみる。甘い。だが美味しい甘さでは無い。僕の好きな静岡蕎麦は甘いつゆが癖になったが今食べている静岡もどき蕎麦は甘いつゆが嫌になる。



とにもかくにも旅は終了となった。
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次はいつ旅に出られるだろうか。